近年、海外VCの日本スタートアップ企業への投資額が上昇しています。要因としては、政府による海外VC誘致の取り組みや米中貿易摩擦による中国企業への投資減少などが挙げられます。
スピーダスタートアップ情報リサーチによると、海外VCの投資額は2023年は311億円だったのに対し、2024年は409億円と31.5%の増加となっています。
以下に2024年に実施された、海外VCによる国内のスタートアップ企業への投資事例を挙げます。
ダイニー
2024年9月、飲食店向けクラウドサービスを提供するダイニーが、アメリカのBessemer Venture Partnersと中国のHillhouse Investment主導で、約74.6億円を調達しました。
BessemerはこれまでLinkedinやShopify、Boxといった有名企業への投資実績があります。最近ではOpenAIの元メンバーによって設立されたアメリカのAIスタートアップAnthropicへの出資も行っている老舗VCです。
BessemerのパートナーであるBryan氏は、グロービス・キャピタル・パートナーズの湯浅氏との対談でダイニーへの出資理由について以下の3点を挙げています。
・日本における外食産業の市場規模の大きさ ・プロダクトの優位性 ・優秀な創業者(山田真央氏)
また、今後も日本市場への投資に積極的な意向を示しており、特に注目しているセクターはSaaSとAIアプリケーションだそうです。
参考文献
Habitto
Habittoは、若い世代の経済不安解消を目指すスタートアップ企業です。2024年11月、アメリカのQED Investorsと日本のDG Daiwa Ventures主導のシリーズAで18億円を調達しました。
QEDはアメリカを代表するFinTech特化のVCで、今回のHabittoが日本で最初の投資となりました。
QEDはこれまでブラジルのNuBankや米アメリカのSoFiに投資した実績があり、共同創業者のフランク・ロットマン氏はForbesのMidas Listに7年連続で名を連ねています。
QEDの投資哲学に『0.8の5乗』という概念があり、非常に有益な考え方として、今後の記事で紹介したいと思います。
参考文献
Frank Rotman | Co-Founder, Partner, and Chief Investment Officer at QED
Zehitomo
Zehitomoは仕事をお願いしたい依頼者と、カメラマン、ヨガ講師、リフォームや工事事業者などさまざまな「プロ」をつなぐプラットフォームを提供しているスタートアップ企業です。2024年4月、台湾のDarwin Venture Managementや韓国のCVCであるKakao Investmentらを中心に、シリーズCで11億円を調達しました。
Darwinは2009年に台湾で創業し、テクノロジーを軸としたスタートアップ投資を行うVCです。日本での活動のテーマを『補完関係 (complementary relationship)』と『架け橋 (bridge)』としており、日本と台湾の産業間の補完関係を活かし、両国のスタートアップエコシステムの架け橋となることを目指しています。
Darwinは2024年だけで、Zehitomo以外にもROXXやeMoBiなど、合計7社の日本企業に出資を行いました。
参考文献
株式会社Zehitomo マッチングプラットフォームのゼヒトモ、11億円のシリーズCの資金調達を完了
海外からの投資を阻む要因
ダイニーへの出資を行ったBessemerのBryan氏は日本のスタートアップ企業に世界の投資家からの大規模な資金が集まりにくい要因を2つ挙げています。1つ目は、事業規模が小さいうちに上場してしまい、そもそも米国やインドのような市場と同程度の資金を必要としていないという点です。
2つ目は、日本特有の規制です。例えば、ダイニーへの投資では、政府の承認プロセスの長さが契約の遅れにつながりました。また、スタートアップ投資時にドルを円に換える前に政府の承認が必要となるなど、海外投資家にとって手続きが煩雑で、現状は投資しやすい環境とは言い難い状況だそうです。
今後、これらの課題を解消することが、さらなるグローバル投資獲得への鍵となるでしょう。
参考文献