本記事では、米国の著名VCであるアンドリーセン・ホロウィッツ(a16z)のマネージング・パートナーを務めるスコット・クポール氏の著書『SECRETS OF SAND HILL ROAD』の日本語版『VCの教科書: VCとうまく付き合いたい起業家たちへ』から内容を一部抜粋してご紹介します。
アーリー・ステージのスタートアップ企業はPMFの達成を通じた収益化を目指しており、まだ事業が軌道に乗っていない段階を指します。つまり、そのビジネスによって将来見込まれるリターンがどれくらいになるのかは明確になっていません。
では、そのような段階のスタートアップ企業に投資をする際、a16zのキャピタリストは何を判断材料にしているのでしょうか?
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ファウンダー・マーケット・フィット
アイデアは独占的なものではないため、魅力的なアイデアならそのアイデアを実現するために作られる企業は他にもたくさんあるとVCは考えます。そのため、出資を判断する際には、単にアイデアの優位性だけでなく、『なぜこのチームなのか?』という視点が重要となります。
このアイデアを形にしようと現れるその他無数のチームの中で、どうしてこのチームを支援したいのか
VCは基本的に競合となる企業には投資しません。なぜなら起業家との信頼関係を損なうリスクがあること、そして投資リターンの最適化が難しくなるためです。
では、VCは数ある創業チームをどのように評価するのでしょうか?
スコット氏は、その重要なポイントとして次のように述べています。
この創業チームがそのアイデアを追求するにいたった独自のスキルやバックグラウンド、経験は何かということだ。
さらに、創業者には2つのタイプがあると説明しています。
- 企業ファーストの企業:まず会社を立ち上げ、その後に製品アイデアを生み出して開発を進める。
- 製品ファーストの企業:ある問題を発見・経験し、それを解決するために製品を開発し、その製品を市場に投入するために企業を設立する
どちらのタイプでも成功する企業は生まれますが、スコット氏によれば、VCにとって魅力的なのは、創業者自身が実際に経験した問題を解決するために起業したケース(製品ファーストの企業)だといいます。
製品ファーストの企業を起こすためには、日頃から多くのことを観察し、自身が負に感じること、もっと改善できそうなことを探す視点を持つことが重要になると考えます。
その代表例がAirbnbです。
Airbnbの創業者たちは、サンフランシスコで開催された会議の際にホテルがどこも満室になることに気付きました。ちょうど家賃を払うのに苦労していた彼らは、自分たちの部屋を貸し出すことで、参加者は宿泊費用を抑えることができるし、自分たちは収入を得るチャンスになると考え、これがAirbnb誕生のきっかけとなりました。
このように、創業者と製品アイデア(市場)の適合性を表した概念が『ファウンダー・マーケット・フィット』です。
このファウンダー・マーケット・フィットが明確だと、創業者は市場に対しての理解と強い熱意を持ち合わせているため、後発や競合に対して差別化された優位性を築きやすくなります。
VCにこのチームでなければならない、と強く思わせることができれば出資につながるのではないでしょうか。
創業者のリーダーシップ
創業者に求められるもう一つの重要な要素は、リーダーシップです。VCはもちろん、エンジニアやマーケティング、営業の優秀な人材を惹きつけられるような、説得力のあるストーリーを生み出す能力があるかどうかです。
起業し事業を軌道に乗せていく過程では、困難に遭遇したり、時には批判されることもあると思います。そんな状況でも創業者は決して事業を諦めたりせず、チームを勇気づけ、引っ張っていく自信があるか、その強さがあるかが出資を決める際の判断材料になります。
創業者になる(すなわち失敗する危険が高い仕事をする)と決断するためには、自分には成功する力があると強い自信を持つ必要があるので、病的に強い自負心を抱くくらいに自己中心的になるものだ。
まとめ
前編ではスコット氏が語るアーリー・ステージの企業に投資する際の決め手となる要素の1つ目『人』について紹介しました。創業者と製品アイデア(市場)の間に強い結びつきがあるかどうかを示す『ファウンダー・マーケット・フィット』や、起業という長く険しい道のりを突き進んでいけるだけのリーダーシップが特に初期のスタートアップ企業には必要になるのです。
後編では本の中で述べられている残りの2つの要素を紹介します。
参考文献