本記事では、ANRI、インキュベイトファンド(IF)、Z Venture Capital(ZVC)の3社が公開した2024年の投資実績をもとに、各VCの取り組みや注目の投資先、今後の展望について私の視点で紹介します。
年ごとの投資実績を詳細に公開しているVCが少なかったため、今回の3社の取り組みには感謝しております。それぞれのVCの特色を比較しながら、2025年以降のスタートアップ市場の動向を読み解くヒントとしてご覧ください。
ANRI
まずは過去にSTORESやラクスル、コインチェックなどへの投資実績のある独立系VCのANRIです。
ANRIは2024年に新規として21社に合計22億円の出資を行いました。また既存の出資先34社に合計45億円の追加出資を行いました。
2023年の新規出資は39社に合計39.8億円だったため、2024年は新規出資先の企業数、投資金額ともに減少しました。
しかし、2024年は社会人向けオンライン学習コミュニティの『Schoo』などを運営する株式会社Schooと、デスクワーカー向け転職プラットフォーム『Z キャリア』などを運営する株式会社ROXXの2社がIPOを果たし、投資先の成長が実証される年となりました。
また、ライドシェア事業を展開するnewmo株式会社や、法人向けクレジットカード事業『UPSIDER』などを運営する株式会社UPSIDERといった注目企業への出資も目立っており、2025年もANRIの投資先に目が離せません。
出資以外にも、大学生限定の起業プログラム『STARTLINE』やPodcastの『ハートに火をつけろ by ANRI』 を始動し、スタートアップ支援の幅を広げています。
ANRIは単なる投資家としてだけでなく、次世代の起業家育成やメディア活動にも力を入れており、日本のスタートアップシーンを牽引する存在として今後の動向が注目されます。
STARTLINE:STARTLINE STARTLINE
Podcast:Spotify ハートに火をつけろ by ANRI
参考文献・出典
ANRI ANRI Summary of 2024 |ANRI
ANRI ANRIのポッドキャストがはじまります🎙|ANRI
Incubate Fund(インキュベイトファンド)
次は「志ある起業家の挑戦を、愚直に支え抜く」をモットーに、2010年の創業以来総額1500億円以上の資金を運用している独立系VCのインキュベイトファンドです。
インキュベイトファンドは2024年に新規として12社に合計18億円超の出資を行いました。また既存の出資先23社に合計64億円超の追加出資を行いました。
2023年の新規出資は16社に合計14億円であり、2024年は件数こそ微減したものの、投資金額は増加しました。
なお、2024年は出資先の株式会社SchooがIPOを果たした他、*Partner Fundの投資先から住宅・不動産業界に特化したMA(マーケティグオートメーション)ツールの『KASIKA』を運営するCocolive株式会社と、コミュニティデータを活用したさまざまな事業を展開する株式会社ライスカレーがIPOを果たしました。
インキュベイトファンドではIFLPシリーズという独立系シードファンドへ組成支援を行うFund of Funds型のファンドを運営しており、ファンド設立時のLP(リミテッドパートナー)出資を行うことで、新たなVCの立ち上げや成長支援にも力を入れています。この取り組みは、国内のスタートアップエコシステムの拡大に貢献しています。
積極的に新卒採用も行っており、キャピタリストの育成や増加にここまで力をいれているVCは、日本ではまだ少ないと思うので、インキュベイトファンドは日本のVC業界において貴重な存在だと感じます。
*Partner Fund:IFLPシリーズから出資しているファンド
参考文献
インキュベイトファンド、IFLP2号ファンドを設立。2022年末までに100億円規模を目指す
Z Venture Capital
最後はLINEヤフーのCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)のZ Venture Capitalです。
Z Venture Capitalは東京、ソウル、サンフランシスコの3拠点を中心に活動を行っており、2024年は日本、韓国、東南アジア、アメリカなどで、54社に合計約52億円の出資を行いました。
(参考にさせていただいた記事では、新規出資と追加出資が区別されていなかったため、まとめて記載しております。)
2023年の投資実績は39社に合計約40億であったため、2024年は出資先企業数、出資金額ともに増加しました。
また、2024年はAIへの注目度が高まっていたこともあり、54社のうち19社(領域別最多)がAI関連企業となりました。
代表的な出資先としては、完全自動運転の実現を目指すTuring株式会社や、AI学習用データセット開発サービス『Qlean Dataset(キュリンデータセット)』を運営するVisual Bank株式会社があげられます。
さらに、2025年には300億円規模の新ファンド『ZVC2号投資事業組合』を組成したZ Venture Capitalは、シードからレイターまでのオールステージ投資や、国内外のスタートアップへの投資によって今後さらに影響力を強めていくことが予想されます。
特に、CVCとしての強みを活かし、LINEヤフーの事業リソースやネットワークと連携したシナジー効果が加速する可能性が高く、2025年以降の投資戦略にも注目です。
参考文献
ZVC 2024年投資実績紹介 ~54社に約52億円を出資~ – ZVC
LINEヤフー株式会社 Z Venture Capital株式会社、300億円規模の新ファンド『ZVC2号投資事業組合』を組成|LINEヤフー株式会社
まとめ
VC各社は独自の強みを活かしながら、スタートアップ支援の幅を広げています。2025年以降、どの分野に資金が集まり、新たな成功企業が生まれるのか。今後の動向にも引き続き注目していきたいと思います。