本記事では、米国の著名VCであるアンドリーセン・ホロウィッツ(a16z)のマネージング・パートナーを務めるスコット・クポール氏の著書『SECRETS OF SAND HILL ROAD』の日本語版『VCの教科書: VCとうまく付き合いたい起業家たちへ』から内容を一部抜粋してご紹介します。
前編ではa16zスコット氏が語るアーリー・ステージの企業に投資する際の決め手となる要素の1つ目『人』について紹介しました。今回の後編では残りの2つの要素をご紹介します。
2. 製品
アーリー・ステージのスタートアップ企業に対し、VCが投げかける最も本質的な問いは、『この製品は市場の根本的なニーズに応えるものか?』という点です。ここで重要なのは、顧客がすでにそのニーズを自覚しているかどうかに関わらず、最終的にお金を払って購入するほどの価値があるかどうかという視点です。
製品のアイデアはあくまで仮説に過ぎない
多くのVCは、創業者が最初に考案した製品がそのまま市場に出回るとは思っていません。なぜなら、実際に製品のアイデアをMVP(Minimum Viable Product)としてアーリーアダプターの顧客のいる市場に出すまでは、スタートアップ企業が抱いた市場のニーズと製品の適合性は仮説に過ぎないためです。
MVPの必要性もこの点で説明できます。仮説の段階で機能を多く搭載したり、作り込んだりすることは市場投入のスピードが遅くなるだけでなく、実験することの要素が増えるので、何が顧客に受け入れられたのかの検証がやりにくくなってしまいます。
私の感覚としてMVPでは、あったら嬉しい機能(Nice to have)ではなく、なくてはならない機能(Must have)に絞るべきだと考えています。
では製品アイデアが仮説の段階でVCは何を評価しているのでしょうか?
スコット氏は次のように述べています。
プロダクト・マーケット・フィットを見定めるうちに何度も変更を繰り返すのだとすれば、 創業者の成功を予測するものは、実際の製品のアイデアではなく、 あれこれと求めて迷うアイデアのプロセスということになる。
重要なのは、創業者が確固たる信念を持ちながらも、それに固執せず、市場のフィードバックを受けて柔軟にピボットできることです。
ピボットを経て成功した企業の例にビジネスチャットツールの『Slack』やお馴染みの『YouTube』があるので、ご興味のある方はぜひ調べてみてください。
3. 市場
ベンチャーキャピタルの投資リターンを説明するのに『Power Law(べき乗則)』という考え方があります。これは、ごく一部の投資先が圧倒的なリターンを生み、大きな成功を収めることで、ファンドの大部分のリターンを形成するという法則です。
このPower Lawという考えを元にすると、VCは大きなリターンが見込める企業に投資する必要があります。そしてそのリターンの大きさに影響を与えるのが、市場規模です。
スコット氏はベンチャー投資における誤りの例として次の2つを挙げています。
- 正しい企業を選ぶが、誤った市場を選ぶこと
- リスクを回避すること
競合と比較して優れた創業チーム、製品であったとしてもさほど大きくない市場にいれば大きなリターンは見込めません。また、失敗するリスクを避けるあまり、大きな成長可能性のある企業に投資しないことも問題だとスコット氏は述べています。
また本の中でベンチマーク・キャピタル創業者のアンディ・ラクレフの以下の言葉を引用しています。
平凡なチームでも巨大な市場にいれば企業は成功できるが、素晴らしいチームでも貧弱な市場にいては必ず失敗する。
市場規模の評価の難しさ
VCが出資を判断する際に市場規模を重視する理由はお分かりいただけたと思いますが、市場規模を評価するのは難しいとも述べています。例えば、フードデリバリー市場はどうでしょう。既にウーバーイーツや出前館といったサービスが存在するため、市場規模は評価しやすいと思います。
一方で現在存在しない市場を狙うスタートアップ企業はそうはいきません。類似市場を参考にすることもできますが、サービスの登場によって市場が拡大する可能性もあります。
VCはこのような不確実性を抱えつつも、市場の成長ポテンシャルを見極め適切な評価を行う必要があるのです。
まとめ
本記事では、前編に引き続きVCがアーリー・ステージのスタートアップを評価する際に重視する「製品」「市場」について、スコット・クポール氏の著書をもとにご紹介しました。
VCとの付き合いを考える起業家にとって、この記事が役に立つことができれば幸いです。
参考文献